シュベスターピアノとは
~協信社~
如何にもクラフトマンの工房を想わせるような素朴な名のピアノ製作所が京浜地帯の一角、蓮田の地に産声をあげたのは昭和4年のことであります。
当時のこの地区(大井、大森、蓮田、六郷、横浜)には小規模ながら非常に熱心なピアノ製作者達(フクシマ・ヒロタ・ホルーゲル・ブッフホルツ・ルビンシュタイン等々)が軒を連ねて技を競い、また相互に交流しながら、より音楽的な楽器の探求に日夜研鑽を重ねていたものと伝えられます。
このような環境の中で、この時代のピアノ製作者の多くがそうであったようにシュベスターもまた種々試行錯誤を繰り返しながら遂時独自の製法を開発し、遂に今日みられるような均整のとれた楽器を完成させたもので、この間、著名な演奏家あるいは調律技術者から直接貴重な助言を得、それを反映させることによって非常に洗練された楽器を世に出すことが出来たのは、東京という音楽的に大変恵まれた立地条件の場に所在した賜物と申せましょう。
~シュベスターピアノの特徴は音にあります~
華麗な音質、豊かな音の伸び、奏者の意のままに得られる音色の変化の幅のひろさは、この楽器を織る専門家の等しく指摘される点であります。
純粋で且つ力強く伸びやかな低音域、ある種の弦楽器を想わせるような響きをもつ中音域、そして非常に透明で、しかも歌唱力に富んだ次中音~高音域。これらの音が奏者の指の動きにつれて、あるいは明るく、また暗く千変万化する様は、全く他にその類例をみません。
~このような音が得られるのは~
・・・・・モデル・・・・・
シュベスターピアノは、世界の銘器Bosendorferをモデルに設計されました。Steinway Bechstein・Bluthnerなどをモデルにした国産ピアノは多々見受けられますが、非常にデリカシーに富んだBosendorferに敢えて挑む愚をおかすもののない中で、この楽器の制作意図を完全に再現し得た唯一の例であります。
・・・・・設計・・・・・
近来、国産ピアノの多くがブリリアントな音を追求のあまり弦の張力を極度に高める傾向にありますが、シュベスターの場合はかなり低い張力で設計されております。
華麗な響きをもつことで世界的に著名なSteinwayによって既に実証されておりますように(この楽器もその張力は決して高い方ではなく、むしろLow Tensionの部類に属します)単に張力を高めることによってのみブリリアントな音が得られるものではなく、他にもその要因を求めるべきでありましょう。そのような配慮を欠いたまま張力のみを高めた場合、得られるものは唯「騒音」であるに過ぎません。
シュベスターは響板の製法に創意工夫を重ねた結果、張力を増すことなく求める音を得ております。更に、ピアノ全体にかかる緊張力がHigh Tensionのものに較べてかなり軽減されるところから、支柱・響板などに経年変化が少ないのもまた当然の帰結であります。
・・・・・支柱・・・・・
昨今のピアノは支柱を簡略化する傾向~鉄骨を補強して支柱を省略する~にありますがシュベスターは ~本格的な支柱組みによって先づ強固な本体の骨格を整え、そのうえ更に充分な強度をもつ鉄骨を併せ用いる~ とするピアノ本来の考え方に基づき、堅木による五本支柱の方式を採用しております。
鉄骨のみにその多くを依存した場合、張力には耐え得ても、-ねじれ・歪み-等には対応出来ません。また、ピアノの生命ともいわれる音響板が内廻しを経て支柱に固定されておりますが、微妙な振動に反応するにはいささかの漏洩も許されず、ここにも強固な支柱を必要とする理由があります。
・・・・・響板・・・・・
ピアノの原点は木です。特に響板はピアノの心臓です。美しい音色を美しく響かせる重要なところだからです。響板は湿気や温度差に影響されやすく日本のピアノづくりの、最も大きな課題でした。この難関をのり越えるために、シュベスターは原木を北海道のえぞ松に限っています。それも、山の北面に育った、木目のつまったものしか使いません。軽く弾力があり、木目が通った均質なもの、さらに日本の気候風土にかなうものが選ばれます。
そして、木材として切り出し、製材し、ピアノのサイズに合わせて寸法を決めるそのつど、自然にじゅうぶん乾燥させます。
・・・・・ハンマー・・・・・
響板のつぎに音の決め手となるのはハンマーです。ハンマーは直接弦にふれて、音を出す仕組みになっています。フェルトを木に巻きつけながらの作業はきわめて高度の技術が求められます。それだけに長年の経験と、カンにすぐれた熟練者の手を持たなければなりません。ボイシング(音色の調整)はハンマーの微妙な調子と許容範囲によって、大きく左右されます。
シュベスターは、世界で最も精巧なハンマーとして知られる、ドイツのレンナーを使っています。
・・・・・組み立て -アクションと鍵盤- ・・・・・
微妙な指の動きを、ハンマーの運動にかえる精密な仕組みがアクションです。早い指づかいにも完ぺきに応じ、長い歳月にわたり正確に働くのが良いアクションです。
鍵盤は、アクションと一体になって動きます。つまり鍵盤をたたくとアクションに伝わり、さらにハンマーの運動にかわります。こうしてピアノは奏でられます。また鍵盤のしずみ方によって、タッチがかわります。弾く人の望むタッチを的確にだすには、このしずみ方の調整がとても大切です。シュベスターでは、88鍵のすべてに特殊フェルトを敷きました。だから、タッチがなめらかで一定し、音のバランスがとれています。また好みによって鍵盤の調整ができるようになっています。
ダンパー(消音装置)の接触を、きちんと合わせているところです。弦の振動を柔らかいフェルトで押えて、振動を止める装置です。
黒鍵を、熟練の技術者がすばやく、均一に塗装します。
・・・・・仕上げ・・・・・
外装には、仕上りの美しさと強度が要求されます。とくに温度差があり、湿度の高い気候では、音に狂いがないように、塗料も特殊なものを使い強度が保てるようにしてあります。シュベスターでは長年の経験から、技術者が厳しく吟味して塗装し美しく仕上げます。
ピアノは楽器であり。楽器の真髄が音にあることは申すまでもありません。真実の音を求めて半世紀。シュベスターはモデルのBosendorferをよく理解して忠実にこれを再現しその時々の流行を追うことなく独自の製法を守り、音の根源ともいうべき音響板には得られる限りの良材を用い、また飽くまでも機械加工を排して量産にはしることなく「楽器」としてのピアノ作りに徹して現在に至った、今日では数少ない存在であります。